主足

【主足】すきなひと

「好きな人がいるんだけどさあ」
 衝撃の言葉で、うとうとと微睡みに落ちようとしていたところを、強風で一気に吹き飛ばされた気分だった。
「俺達、付き合ってるんですよね」
 俺と足立さんはお付き合いをしている仲の筈だし、今だってベッドの上に隣同士で眠ろうとしていた所だ。狭いベッドの上で。わざわざ二人で。
「ちょっと聞いててってば」
「…………はい」
 納得はいかないが返事をする。足立さんはうつ伏せで気持ちよさそうに腕を伸ばして、顔だけをこちらに向けた。
「すごく可愛い子なんだよ」
「その、好きな人がですか」
「うん。惚気。聞いて?」
「……あんまり聞きたくないんですけど、というか」
 足立さんは人差し指を唇にあてて、しー、とジェスチャーをする。俺はこういった姿に弱い。口ごもっていると、そこをすかさず足立さんが割り込む。
「可愛いっていうか、美人系なんだけど……顔がいい。うん」
 満足そうに頷いている。
「あとね、料理が上手。器用なんだろうね、多分はじめれば何でもできちゃう」
「足立さんの好みじゃないですか」
「あ。覚えてた? そうなんだよね、はじめは気付かなかったんだけど」
「はあ」
「あとすっごく尽くしてくれる。しっかりした子なんだけど、僕としては時々甘やかしたくなるかな。それで、僕の事大好きなの。だから僕も好き、一生一緒にいてくれるんだってさ」
 好きな人が、足立さんが好きな人の話をしている。それを聞かされて、焦れない俺ではない。俺はベッドから起き上がって、足立さんに覆いかぶさり叫び声みたいな声を出す。
「お、俺だって足立さんのこと好きです、絶対に一人にしません! 俺のほうが絶対に足立さんの事大好きですから!」
「それはないね」
「っどうして分かるんですか!」
「だって好きな人って君の事だもん」
「…………はいっ?」
「甘やかされるのも悪くないけど、たまにはいいよね。おいで」
 足立さんが手を広げてシーツを持ち上げた。そこには人ひとり分はいる隙間がある。俺のはいる隙間。困惑しながらもそのスペースに収まると、ぎゅうと優しく抱き締められる。
「なんでわざわざ意地悪な言い方したんですか」
「意地悪だった? ごめんね、僕素直じゃないから」
「今日は素直です……どうしたんですか」
「たまにはいいでしょ」
 俺を抱き締める体温はあたたかい。幸せってこういう事なんだろうか。間近で足立さんの匂いがして、ちょっとドキドキした。優しい夜だ。